願わくば大新聞も

ときの政権が右という場合でも、なびかないで欲しいと

下請け業者に不当な取扱い

 ☆不当に代金を減額

      森永製菓に下請法違反勧告
      公取委 不当に代金減額
       産経新聞 2019.4.23

  森永製菓が菓子などの製造委託先5社に支払う
 代金を不当に計約950万円減額したのは下請法
 違反に当たるとして、公正取引委員会は23日、
 同社に再発防止を勧告した。

 公取委によると、森永製菓は平成28年11月~
 30年5月、5社から仕入れる菓子や食料品の
 単価を引き下げた際、改定前に発注した分にも新
 たな単価を適用することで、本来の代金より少な
 い額を支払っていた。

  下請法は、下請け業者に責任がないのに、発注
 時に定めた金額を減額して支払うことを禁止して
 いる。下請け側と減額に合意していても同法違反
 となる。
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 ☆優越的地位の濫用と下請法   独占禁止法は、不公正な取引方法を禁止しており、その  代表的な行為が「優越的地位の濫用」です。  取引上優越した地位にある企業が、取引先に不当に不利益  を与えることであり、具体的には押し付け販売、返品、  従業員派遣や協賛金負担などを強いることがある。   下請事業者と親事業者との取引に、こうした不公正な  取引が起こりやすく、それを防止し下請事業者の利益を  保護するために下請法が制定されている。  ☆下請法に規制される親事業者の禁止行為   注文した物品等の受領を拒否すること   代金を支払期日までに支払わないこと   定めていた下請代金を減額すること   受け取った物を返品すること   不相当に低い下請代金を定めて買いたたくこと   など  <下請事業者の了解を得ている場合でも>   下請法の禁止規定には、「下請事業者の責に帰すべき  理由がないのに」としており、下請事業者の合意があって  も違反になる。  *下請事業者の支払合意が有効か否かについて     札幌地裁の判決(平成31年3月14日)    民法は、私的自治をその基本理念としているが、   同法90条により私人間の合意を無効とすることは、   私的自治への介入であるから、同条の適用は私的自   治への過剰な介入とならないよう慎重に判断されな   ければならない。    しかし、取引の一方当事者が暴利行為ないし優越   的地位の濫用に及んだ場合には、民法90条により   その取引条件を無効とすることにより相手方当事者   を救済し、健全な取引秩序を回復する必要がある。   この取引条件は、相手方当事者の自由かつ自主的な   判断に基づくものではなく、私的自治の前提を欠い   ているから、これを無効としても私的自治への過剰   な介入にはならない。    以上から、販促協力金の支払合意が公序良俗に反   するとして民法90条により無効とされるためには、   合意が暴利行為ないし優越的地位の濫用に該当する   ことが必要である。

 

管理職とは、管理監督者とは

 

 ☆管理監督者に該当しない

    日産に残業代支払い命令 元社員
   「管理監督者」該当せず 横浜地裁
     時事通信 2019年03月26日

  日産自動車の課長級社員だった男性の遺族が、
 同社に未払い残業代約524万円を求めた訴訟の
 判決が26日、横浜地裁であった。

 新谷晋司裁判長は、男性が残業代の支給対象外と
 なる「管理監督者」に該当しないと判断し、約
 357万円の支払いを命じた。

  争点は、上司の指揮命令を受けずに特定の業務
 に従事するとされる「スタッフ職」だった男性が、
 管理監督者に当たるかどうかだった。

 新谷裁判長は「男性に重要な職責や権限が付与さ
 れていたとは認められない」と述べ、労働条件な
 どが経営者と一体的立場である管理監督者には
 該当しないと判断。

 海外戦略を担当していた男性は支店長に相当し、
 管理監督者に当たるとした日産側の主張を退けた。 


      教頭過労自殺を労災認定
      管理監督者に当たらず
       産経新聞 2019.2.1

  羽曳野労働基準監督署大阪府藤井寺市の私立
 大阪緑涼高で昨年3月、男性教頭が自殺したのは
 長時間労働と上司とのトラブルが原因として労災
 を認めた。

  遺族側代理人の松丸正弁護士によると、労基署
 は男性が労働基準法上、残業代や休日出勤手当の
 支払い対象外となる「管理監督者」には当たら
 ないと認定。

  労基署は適応障害を昨年3月中旬に発症したと
 認定し、発症前の2カ月の時間外労働が少なくと
 も月130時間、147時間だったとした。


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 ☆名ばかり店長   時間外労働の割増賃金を支払うことを避けるため肩書  だけ管理職にする賃金抑制策が話題になっている。  労働基準法では、管理監督者に当たる労働者は労働時間  や休日の規定が適用されないことになっている。  入社して間もない労働者を名ばかり店長にしている例は、  実体がないと分かりやすいが、課長級社員や学校の教頭  職など判断がつきにくい場合がある。   どのように区別するのか、管理監督者と認める判断  基準が次のように示されている。  ☆管理職手当を受けても     管理監督者とは認められない   消防署の主幹として管理職手当の支給を受けて  いた職員が、時間外勤務手当等の支払を請求した  件で、裁判所は管理職手当が支払われていること  だけをもって管理監督者と認めることはできない、  と判断している。  (名古屋高裁 平成21年11月11日 判決)  理 由   管理監督者は、労働時間等の規制を超えて活動するこ  とが要請されるような重要な職務と責任、権限を付与さ  れ、勤務態様も労働時間等の規制になじまない立場にあ  ると考えられているから、  (1) その労働者が実質的に経営者と一体的な立場にある   といえるだけの重要な職務と責任、権限を付与されて   いるか、  (2) 経営や労務管理等に関する重要事項にどの程度関与   しているか、  (3) 出退勤を管理されることなく、勤務時間について   ある程度の自由が認められているか、  (4) 給与や手当等において、その地位と職責に相応しい   待遇がなされているか等について検討し実質的、総合   的に判断すべきである。   いわゆる管理職手当が支払われているとしても、その  ことだけをもってその労働者を管理監督者と認めること  はできない。

 

クーリング・オフ期間経過の場合

 ☆高齢者に押し買い

    高齢者標的に強引に安く買い取り
    押し買い容疑で6人逮捕
     河北新報 2018年09月20日

  貴金属の訪問購入の際、客に適切な説明をしな
 かったとして、宮城、岩手、山形、福島4県警の
 合同捜査本部は20日、特定商取引法違反(不実
 告知など)の疑いで、仙台市青葉区の訪問買い取り
 会社「リサイクルセンター東北」社長佐瀬常太容疑
 者と現・元従業員5人を逮捕した。

  6人は被害者宅を訪問して不要な貴金属を買い取
 る際、売買時の契約に必要な書面を渡さなかった上、
 クーリングオフの説明もしなかった。

 「クーリングオフはできない」と虚偽説明したケー
 スもあったという。


 *特定商取引法は、訪問販売についてクーリングオフ制
  度を認めているが、25年2月から押し買い=訪問購入
  にもクーリングオフ制度が適用されることになった。

 

 

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 ☆クーリングオフ=契約申込みの撤回   特定商取引法に規定する訪問販売等の契約では、消費  者保護のためのクーリングオフ制度がある。  この制度は、理由を問わず無条件に、一方的に申込みの  撤回ができるという特徴がある。相手の同意も必要ない。   特定商取引法に定める契約で、消費者が冷静な判断が  できないような場合リスクの高い取引を行うことがある。  このため、消費者が頭を冷やして考え直せるというのが  制度の趣旨です。  ただし、書面により契約申込みの撤回等を行うこと、定  められた期間内に行うことが必要とされている。  ☆クーリングオフの期間   訪問販売等では8日間、連鎖販売取引等では20日間の  期間内であれば、無条件で契約申込みの撤回等を行うこ  とができる。  この期間の始めはいつからか、契約を承諾した日から起  算するのか、ということが争いになることが多い。  また、事業者が誤った説明をしたまま契約したという場  合もある。   特定商取引法には、「契約内容を明らかにする書面を  受領した日から起算して」と規定している。  そこで問題になるのは、事業者がこの書面を交付してい  ない場合、書面に不備がある場合や虚偽の説明を行って  いる場合です。  こうした場合は、書面を受領したことにならないので、  クーリングオフの期間は進行しない。事業者がクーリン  グ・オフの期間が過ぎていると主張できない。  事業者から法律で定めた書面の交付を受けた日が期間の  起算点となる。  ☆契約から2か月以上経過して認められた事例  平成17年5月25日 京都地裁 判決   リフォーム工事と浄水器の販売を業とする会社が訪問  販売により、商品の販売と水道管洗浄作業請負の契約を  原告と締結し、契約金として116万円を受領した。  原告は契約から2か月以上経過して契約解除の意思表示を  したが、これが有効かどうかが争われた。  判決理由   被告が原告に交付した水道管洗浄作業請負契約書、工  事請負契約書は法5条2項、1項1号、4条に定める記載事  項に不備がある。   水道管洗浄作業請負契約書において、役務提供契約に  もかかわらず、法4条4号に定める事項の記載がなされて  いない。  工事請負契約書において、法4条4号の記載を欠いている  だけでなく、支払方法について単に「ローン」とあるの  みであり、法4条2号の記載も欠いている。    、、、   したがって、被告が原告に交付した前記書面は、法5条  の書面に該当しないというべきである。   そうすると、旧法9条1項に基づく解除の期間は進行し  ていないから、原告の行った解除は有効である。

 

自由貿易のリーダーと国内産業の衰退

 ☆国際協調をリードする責任

   日欧EPAが発効 巨大な貿易圏を生かそう
       毎日新聞 2019年2月1日

  米国の専横で混乱する国際秩序の立て直しにつなげ
 てほしい。

 日本と欧州連合経済連携協定(EPA)が発効した。
 関税撤廃の対象は幅広く、日欧双方に大きなメリット
 をもたらす。 

  日本の消費者は欧州産のワインやチーズを安く買え
 る。欧州への自動車輸出にも追い風となる。政府は経済
 効果を5兆円強と試算している。

 農家への影響に目配りしつつ、国内全体の活性化につな
 げるべきだ。 

 日本が米国と近く行う貿易交渉でも、米国の保護主義
 圧力の防波堤となる。

 英国の離脱交渉や反EU政党の台頭に揺れるEUにも
 プラスだ。 

  EUは対日輸出が3割以上増える可能性があるとみ
 ている。自由貿易のメリットがEU各国に広がれば、
 経済統合の意義が改めて認識される契機になりうる。
 EUの求心力回復に役立つ効果が期待できる。 

 世界経済は米中貿易戦争で悪化の恐れが強まっている。
 日欧の経済が自由貿易で底上げされると、世界全体の
 安定にも寄与する。 

 日欧EPAは、TPPとともに世界の自由貿易をけん
 引する車の両輪にもなる。

 EUの要であるドイツのメルケル首相が来週、来日し
 て安倍晋三首相と会談する。EPA発効を踏まえ協調
 の意義を確認する見通しだ。 

 日本は6月の主要20カ国・地域首脳会議で議長国を
 務める。

 首相はドイツなどと緊密に連携し国際協調をリードす
 る責任がある。


 ☆政府への注文

  自由貿易のけん引車になれ、と盛り上げる全国紙です。

 では、地方紙の方は、農業生産の方に目を向けた論調
 になるかと思いきや、そうではない。

 世界に自由貿易の意義を示すよう促すとともに、農家
 に対しても追加対策を忘れてはいけない、といいます。


 ....................

  自由貿易による多角的な国際協調の枠組みを、日欧  が基軸となって立て直す責務を負う図式だ。   政府の責任は、自動車など工業製品の輸出増と引き  換えに逆風にさらされる農業関係者への支援対策を  万全に成し遂げることにある。  畜産農家らは多方面から厳しい攻勢を受け続けること  になろう。  農業生産額の減少は年1100億円と見込まれる。  市場開放による影響を見極め、農家の体質強化や経営  安定などの追加対策にも十分配慮してほしい。    (河北新報 2019/2/2)


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  しかし、行き過ぎた市場開放に疑問を示し、農山  漁村が衰退する問題を取り上げるのは、次の社説です。  ☆自由貿易のメリットばかり強調       する一方、農山漁村は衰退    TPP発効 農の営み、次につなごう       中國新聞 2018/12/31   関税撤廃が柱となる協定は、来年2月に欧州連合と  の間でもスタートする。TPPを離脱した米国も日本  市場を狙っている。  国内農家にすれば試練のドミノ倒しが始まる。  諸外国は「食料安全保障」を重んじる。安保は何も  防衛に限った話ではない。  行き過ぎた市場開放や工業最優先の通商政策は、平等  や公平の観点からも問題がある。弱い立場にある人を  切り捨てない社会こそ、私たちが望む姿ではないか。  人口減少社会では海外に活路を求めるのは、やむを得  ない。保護貿易の議論は別にしても、ことさらTPP  のメリットばかりを唱える政府には違和感を禁じ得ない。   日本の経済効果は7兆8千億円、、、。  雲をつかむような数字が羅列される一方、目に見える  確かな現実が農山漁村の衰退である。  高齢化や担い手不足にあえぎ、耕作放棄地も増え続け  る。漁業や林業を含め第1次産業が中心の地方にとって  は、コミュニティー存亡の危機とも言えよう。   強者の論理を改めて感じたのは、国連の「小農宣言」  採決を先日棄権したことである。  家族経営や兼業など比較的規模の小さな農家への財政  支援を各国に求める内容だ。ビジネスとは一線を画し、  代々の土地を守る農の営みをどう保つか。  棚田のような耕作条件が厳しい土地を多く抱える中国  地方の中山間地域の農家は、同じ訴えを政府にぶつけ  てきた。棄権という選択は理解に苦しむ。

 

違法な販売取引と被害者側の過失

 

 ☆化粧品の連鎖販売で「絶対にもうかる」

    「働かなくても稼げる」と若者勧誘
    化粧品会社の一部業務停止
      京都新聞 2018年12月05日

  滋賀県は5日、「絶対にもうかる」などとして化粧
 品の連鎖販売取引マルチ商法)に契約させたのは
 特定商取引法違反(迷惑勧誘など)にあたるとして、
 金沢市の化粧品販売会社「セリュール」に対し、県内
 での新規勧誘など一部の業務を3カ月間停止するよう
 命じた。

  1人紹介すれば8万円の報酬が得られると誘って、
 利益が確実であるかのように誤解させ、約50万円で
 会員登録を行っていた。

   

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 ☆連鎖販売取引   マルチ商法といわれる販売方法では、商品を購入した  者が販売員にもなって、新たな購入者を増やし販売網を  連鎖的に広げていく。 この場合、商品やサービスを提供する限りは合法とされ  ているが、金銭の配当だけを目的として無限に会員を集  める「ねずみ講」は違法である。(コトバンク)   ただ、ねずみ講ではなくとも不当な勧誘による連鎖  販売取引があり、特定商取引法違反として行政処分など  が行われる。  相手方に契約を解除させないようにするために嘘をつく、  威迫して困惑させる、勧誘目的を告げないなどの行為が  禁止されており、行政処分・罰則の対象になる。   行政上の規制とは別にトラブル解決のため、特定商  取引法は、クーリング・オフ制度、意思表示の取消し  制度を定めている。  ☆違法な取引と損害賠償請求   故意や過失にもとづく違法な行為により損害を受けた  場合、加害者に対して損害賠償を請求できる。  これに対して会社側は、違法な行為ではないと主張し、  被害者側に賠償請求権があるかなどを争うことがある。   さいたま地裁の裁判で会社側は、虚偽の事実を申告し  ていた被害者側が損害賠償請求をすることは信義則に  反すると主張している。   平成18年7月19日 さいたま地裁 判決   連鎖販売取引の裁判において、通信販売事業として確  実に利益を上げることができる等と勧誘していた業者に  対して違法な取引であると認めて損害賠償を命じられた。   通信販売事業としては実体がないのに、オーナー契約  を締結させて高額な契約金を支払わせていた。  次々とオーナー契約を締結し続けなければ、利益を確保  することもできないことが明らかであるのに十分な説明  を行っていない、と認定されている。  (被告会社の主張)   被告会社においては、未成年者や保護者の同意承諾の  ない学生はオーナーになれないとして取り扱っていたが、  原告らは学生でないと虚偽の事実を申告していたもので  あって、損害賠償請求をすることは信義則に反する。  裁判所の判断   被告らは犯罪行為と把握できるほどの違法性の高い  取引行為を持ちかけて、不当な利益を得ようと企てたの  であり、被告らの違法性に比して原告らのそれは非常に  軽微である。  被告会社が目論んでいた違法な契約自体が、原告ら第三  者に虚偽の事実を申し述べさせることを元々想定し、  それを前提として仕組まれていたともいえる。   被告らの責任を軽減することは、むしろ公平とは言い  難いと考えられる。

 

労働者が使用者の命令に従うべき義務

 ☆ひげを生やして勤務する運転士

      「ひげ生やすのは個人の自由」
      人事の低評価に賠償命令
        NHK 2019年1月16日

  大阪市営地下鉄の運転士らがひげを生やして勤務し
 ていることを理由に、最低の人事評価にされたのは
 不当だと訴えた裁判で、大阪地方裁判所は「ひげを生
 やすかどうかは個人の自由で、人格的な利益を侵害し
 違法だ」として、大阪市に40万円余りの賠償を命じま
 した。

  この裁判は3年前、当時の大阪市営地下鉄の運転士、
 河野英司さんら2人が、ひげを生やして勤務している
 ことを理由に、人事で最低評価にされたのは不当だと
 訴えて大阪市に賠償を求めたものです。


 ☆批判的な意見

  この判決に対しては、批判的な意見も出ています。

 「地下鉄運転手という接客も含まれる仕事である。
  身だしなみを整えるルールは必要であろう。

  実際、市民からも批判的な意見が出ていた。」


  しかし、労働者と使用者との関係については以前
 から慎重な配慮が求められている。

  労働者は、企業秩序維持のため必要な命令に従う
 べきであるが、使用者の一般的な支配に服するもので
 はない、という考えです。

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 ☆身だしなみの規則  (上のニュースには次のような説明が続いている。)   大阪市交通局は、平成24年に男性職員にひげをそる  よう求める「身だしなみ基準」を設けていて、裁判で  はこの基準の是非などが争われました。   16日の判決で大阪地方裁判所の内藤裕之裁判長は  「清潔感を欠くとか、威圧的な印象を与えるなどの理  由から地下鉄の乗務員らにひげをそった状態を理想的  な身だしなみとする基準を設けることには必要性や  合理性があるが、この基準はあくまで職員に任意の協  力を求めるものだ」と指摘しました。  そのうえで「ひげを生やすかどうかは個人の自由で、  ひげを理由にした人事評価は人格的な利益を侵害し  違法だ」として、大阪市に慰謝料として40万円余りを  支払うよう命じました。  ☆過去の裁判では   「労働者は、全人格を使用者に売り渡しているので  はないから、使用者に対し無定量の忠実義務ないし  絶対的な服従義務を負うものではない」と表現した  事例もある。   昭和52年12月13日 最高裁 判決  (他の従業員の就業規則違反についての      調査に協力すべき義務を負っているか)   企業が企業秩序違反事件について調査をすることが  できるということから直ちに、労働者が、これに対応し  て、いつ、いかなる場合にも、当然に企業の行う調査に  協力すべき義務を負っているものと解することはでき  ない。   労働者は、労働契約を締結して企業に雇用されること  によって、企業に対し労務提供義務を負うとともに、  これに付随して、企業秩序遵守義務その他の義務を負う  が、企業の一般的な支配に服するものということはでき  ないからである。   平成9年12月25日 福岡地裁小倉支部 決定  (髪の毛を染めて勤務したことを取引先          から好ましくないと指摘された)   一般に、企業は、企業内秩序を維持・確保するため、  労働者の動静を把握する必要に迫られる場合のあること  は当然であり、このような場合、企業としては労働者に  必要な規制、指示、命令等を行うことが許されるという  べきである。   しかしながら、このようにいうことは、労働者が企業  の一般的支配に服することを意味するものではなく、  企業に与えられた秩序維持の権限は、自ずとその本質に  伴う限界があるといわなければならない。  特に、労働者の髪の色・型、容姿、服装などといった人  の人格や自由に関する事柄について、企業が企業秩序の  維持を名目に労働者の自由を制限しようとする場合、そ  の制限行為は無制限に許されるものではない。  企業の円滑な運営上必要かつ合理的な範囲内にとどまる  ものというべく、具体的な制限行為の内容は、制限の  必要性、合理性、手段方法としての相当性を欠くことの  ないよう特段の配慮が要請されるものと解するのが相当  である。

 

労働者に当たるかどうかの判断

 

 ☆NHK受信料徴収の地域スタッフは「労働者」

      NHKの不当労働行為を認定
      団交拒否、東京地裁
       共同通信 2018/09/28

  労働組合との団体交渉に応じなかったことを「不当
 労働行為」と認定した中央労働委員会の判断には事実
 誤認があるとして、NHKが取り消しを求めた訴訟の
 判決で、東京地裁は28日、請求を棄却した。

  団体交渉を求めたのはNHK受信料の徴収を担当す
 る地域スタッフでつくる「全日本放送受信料労働組合」。

  NHKは、スタッフは独立した事業者で労働組合法
 上の「労働者」には当たらないと主張。

 佐久間健吉裁判長は、目標達成の報告を求めているこ
 となどから「労働者性が認められる」と判断し、正当
 な理由なく団交を拒否したと結論づけた。



 ☆労働者かどうか

  一般の雇用契約でも、「労働者」に当たるかどうかの
 問題があります。

 例えば、管理職と呼ばれていても労働基準法にいう「管
 理監督者」に当たるかどうかが争われる。

 残業手当や休日の扱いが一般の労働者と管理監督者とで
 は異なるが、「名ばかり管理職」といわれて権限などが
 ないにもかかわらず、労働者保護を受けないような扱い
 をすることがある。

  使用者に残業手当の支払義務があるかが問われて、管
 理監督者ではない、「労働者」に当たると判断される
 ケースがある。

  また、アルバイト店員らが加入する労働組合が労働組
 合法で保護される労働組合であるかどうかの争いもある。


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 ☆業務委託契約の受託者   今回問題になっているのは、雇用契約ではない。  業務委託契約を結んでいる受託者が労働組合法上の労働  者に当たるかどうかをめぐって訴訟になっている。   この「労働者に当たるか」については、契約の形式が  どうか、雇用か業務委託かあるいは個人営業者の請負か  ということにかかわらず、仕事の実態で判断されること  になっている。  ☆「労働者」か否かの判断事例  (通常の雇用契約の形式を取らず、外部から業務   の提供を求める場合でも、その労働の実態を踏   まえて「労働者」か否かを判断されている)    民間放送会社の放送管弦楽団員が労働    組合法上の労働者に当たるかどうかが    争われた    昭和51年5月6日 最高裁 判決  (1)放送会社が一方的に指定して出演を求め、    楽団員はこれに応ずべき義務を負っていた  (2)出演の報酬は演奏労務を提供する対価と認    められる   こうした理由から、その楽団員は労働組合法が   適用される労働者である、と判断されている。   要 旨   民間放送会社とその放送管弦楽団員との間で   放送出演契約が締結されていた。   その楽団員には、その放送会社が必要とする   ときに会社が一方的に指定して出演を求める   ことができ、楽団員は原則としてこれに応ず   べき義務を負うという関係が存在していた。   しかも、楽団員に対する出演報酬は演奏自体   の対価とみられるものであり、芸術的価値を   評価するとは認められない。   こうした場合には、その楽団員は労働組合法   の適用を受ける労働者に当たる。