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パワーハラスメントで会社の責任


 ☆トヨタ社長が遺族に直接謝罪、
  一転和解 若手社員パワハラ自殺
    毎日新聞 2021/6/7

  トヨタ自動車の男性社員が2017年に自殺したのは、上司
 のパワーハラスメント適応障害を発症したのが原因だった
 として、豊田章男社長がパワハラと自殺との因果関係を認め、
 男性の遺族に直接謝罪していたことが判明した。

 トヨタ側は徹底した再発防止策を誓うとともに、解決金を
 支払うことで遺族と和解した。

 

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 ☆パワーハラスメントの定義

  厚生労働省パワーハラスメントの定義を次のように説明
 しています。 

  職場において行われる

 (1)優越的な関係を背景とした言動であって、

 (2)業務上必要かつ相当な範囲を超えたものにより、

 (3)労働者の就業環境が害されるものであり、

 (1)~(3)までの要素を全てみたすもの。


 典型例

 1)身体的な攻撃
   暴行・傷害

 2)精神的な攻撃
   脅迫・名誉毀損・侮辱・ひどい暴言

 3)人間関係からの切り離し
   隔離・仲間外し・無視

 4)過大な要求
   業務上明らかに不要なことや遂行不可能なことの
   強制、仕事の妨害

 5)過小な要求
   業務上の合理性なく、能力や経験とかけ離れた程度の
   低い仕事を命じることや仕事を与えないこと

 6)個の侵害
   私的なことに過度に立ち入ること

 
 ☆パワハラの加害者と会社の責任

  パワーハラスメントを行った社員(加害者)と、その
 使用者は、不法行為等により損害賠償を請求されること
 がある。


 ☆裁判事例1

  会社の上司からパワハラを受け、うつ病になって退職
 を余儀なくされた原告が、加害者と会社に対して不法行
 為と使用者責任に基づく損害賠償を請求し、裁判所は
 これを認めた。


  平成29年12月5日  名古屋地裁 判決

  概要

  被告会社の従業員であった原告が、被告会社において
 上司であった被告Yからパワーハラスメント行為を受け、

 うつ病となり退職を余儀なくされたなどと主張して、被告
 Yに対し不法行為に基づく損害賠償と、被告会社に対し

 使用者責任又は安全配慮義務違反の債務不履行責任に基づ
 く損害賠償として損害金の連帯支払を求める。


  争点

 1)被告Yによるパワハラ行為の有無

 2)被告会社の使用者責任


  裁判所の判断

 1)被告Yによるパワハラ行為の有無

  原告は、平成26年3月頃から手先のしびれと震え、倦怠
 感、記憶の不安定がみられるようになった。

 さらには同年5月以降精神科を受診して同年4月頃に、うつ
 病を発症したと診断され、休職に至ったものである。

 この経緯に照らし合わせても、原告は被告Yの上記言動に
 よってうつ病を発症し休職に至ったものといえる。


 2)被告会社の使用者責任

  被告会社は、被用者の選任、監督について相当の注意をした
 ときでない限り使用者責任を負う(民法715条1項ただし書)。

   被告会社が、本件につき上記の選任、監督について相当の注意
 をしたといえるかについて検討する。

  原告が被告会社に入社した時点において、被告Yには既に
 他の従業員に対する威圧的な言動が時にみられたところであるが、

 そのような被告Yに対する指導等が本件パワハラ行為以前にされ
 た形跡はうかがわれないこと、被告Yの原告に対する本件パワハ
 ラ行為について他の従業員が相談窓口に連絡した形跡もうかが
 われず、抜き打ち調査等でも把握されなかったことなどに照らす
 と、被告会社の措置は奏功しているものではない。

  実際に被告Yの本件パワハラ行為が数箇月にわたって継続して
 いたことからしても、被告会社は被告Yの選任、監督につき相当
 の注意をしたとはいえない。

   そうすると、被告会社は原告に対し被告Yのした本件パワハラ
 行為について使用者責任を負い、被告Yと連帯して損害賠償義務
 を負う。

 
 ☆裁判事例2

  新入社員が上司のパワーハラスメントにより自殺し
 たことにより、この父親が上司(加害者)と会社の
 不法行為責任等を追及した。

 裁判所は、被告(加害者)の発言が人格を否定し、威迫
 するものであり、典型的なパワーハラスメントである
 と認めて損害賠償の支払いを命じた。


  平成26年11月28日 福井地裁 判決

  概要

  新入社員が上司のパワーハラスメントにより自殺したと
 して、原告(亡dの父)が被告bらに対して不法行為責任
 に基づく損害金等の支払を求めた。


  裁判所の判断

 争点1(被告bによる不法行為の有無)

  上記手帳の記載は、被告bの指導に従って被告bから受け
 た指導内容、言われた言葉やこれらを巡っての自問自答が記述
 されたもので、被告b自身も自分が注意したことは手帳に書い
 てノートに写すように指導していたことを認めている。

 また、証拠によると上記の判明しているすべての日付けが被告b
 をチームリーダーとして業務に従事した日である。

 上記手帳の記載によると、dは被告bから次のような言葉又は
 これに類する言葉を投げかけられたことが認められる。

 「学ぶ気持ちはあるのか、いつまで新人気分」、「詐欺と同じ、
 3万円を泥棒したのと同じ」、「毎日同じことを言う身にもなれ」
  、、、

  これらの発言は、仕事上のミスに対する叱責の域を超えてdの
 人格を否定し、威迫するものである。これらの言葉が経験豊かな
 上司から入社後1年にも満たない社員に対してなされたことを考
 えると典型的なパワーハラスメントといわざるを得ず、不法行為
 に当たる。


 争点3(被告会社の責任)

  被告bのdに対する不法行為は、外形上はdの上司としての業務
 上の指導としてなされたものであるから、事業の執行についてなさ
 れた不法行為である。

 本件において、被告会社が被告bに対する監督について相当の注意
 をしていた等の事実を認めるに足りる証拠はないから、被告会社は
 原告に対し民法715条1項の責任を負うこととなる。


 争点4(被告bの不法行為と本件自殺との相当因果関係)

  被告bから人格を否定する言動を執拗に繰り返し受け続けてきた。
 dは高卒の新入社員であり、作業をするに当たっての緊張感や上司
 からの指導を受けた際の圧迫感はとりわけ大きいものがあるから、
 被告bの前記言動から受ける心理的負荷は極めて強度であったと
 いえる。

 このdが受けた心理的負荷の内容や程度に照らせば、被告bの前記
 言動はdに精神障害を発症させるに足りるものであったと認められる。

  そして、dには業務以外の心理的負荷を伴う出来事は確認されて
 いない。

  よって、被告bの不法行為と本件自殺との相当因果関係はこれを
 認めることができる。