願わくば大新聞も

ときの政権が右という場合でも、なびかないで欲しいと

自由貿易のリーダーと国内産業の衰退

 ☆国際協調をリードする責任

   日欧EPAが発効 巨大な貿易圏を生かそう
       毎日新聞 2019年2月1日

  米国の専横で混乱する国際秩序の立て直しにつなげ
 てほしい。

 日本と欧州連合経済連携協定(EPA)が発効した。
 関税撤廃の対象は幅広く、日欧双方に大きなメリット
 をもたらす。 

  日本の消費者は欧州産のワインやチーズを安く買え
 る。欧州への自動車輸出にも追い風となる。政府は経済
 効果を5兆円強と試算している。

 農家への影響に目配りしつつ、国内全体の活性化につな
 げるべきだ。 

 日本が米国と近く行う貿易交渉でも、米国の保護主義
 圧力の防波堤となる。

 英国の離脱交渉や反EU政党の台頭に揺れるEUにも
 プラスだ。 

  EUは対日輸出が3割以上増える可能性があるとみ
 ている。自由貿易のメリットがEU各国に広がれば、
 経済統合の意義が改めて認識される契機になりうる。
 EUの求心力回復に役立つ効果が期待できる。 

 世界経済は米中貿易戦争で悪化の恐れが強まっている。
 日欧の経済が自由貿易で底上げされると、世界全体の
 安定にも寄与する。 

 日欧EPAは、TPPとともに世界の自由貿易をけん
 引する車の両輪にもなる。

 EUの要であるドイツのメルケル首相が来週、来日し
 て安倍晋三首相と会談する。EPA発効を踏まえ協調
 の意義を確認する見通しだ。 

 日本は6月の主要20カ国・地域首脳会議で議長国を
 務める。

 首相はドイツなどと緊密に連携し国際協調をリードす
 る責任がある。


 ☆政府への注文

  自由貿易のけん引車になれ、と盛り上げる全国紙です。

 では、地方紙の方は、農業生産の方に目を向けた論調
 になるかと思いきや、そうではない。

 世界に自由貿易の意義を示すよう促すとともに、農家
 に対しても追加対策を忘れてはいけない、といいます。


 ....................

  自由貿易による多角的な国際協調の枠組みを、日欧  が基軸となって立て直す責務を負う図式だ。   政府の責任は、自動車など工業製品の輸出増と引き  換えに逆風にさらされる農業関係者への支援対策を  万全に成し遂げることにある。  畜産農家らは多方面から厳しい攻勢を受け続けること  になろう。  農業生産額の減少は年1100億円と見込まれる。  市場開放による影響を見極め、農家の体質強化や経営  安定などの追加対策にも十分配慮してほしい。    (河北新報 2019/2/2)


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  しかし、行き過ぎた市場開放に疑問を示し、農山  漁村が衰退する問題を取り上げるのは、次の社説です。  ☆自由貿易のメリットばかり強調       する一方、農山漁村は衰退    TPP発効 農の営み、次につなごう       中國新聞 2018/12/31   関税撤廃が柱となる協定は、来年2月に欧州連合と  の間でもスタートする。TPPを離脱した米国も日本  市場を狙っている。  国内農家にすれば試練のドミノ倒しが始まる。  諸外国は「食料安全保障」を重んじる。安保は何も  防衛に限った話ではない。  行き過ぎた市場開放や工業最優先の通商政策は、平等  や公平の観点からも問題がある。弱い立場にある人を  切り捨てない社会こそ、私たちが望む姿ではないか。  人口減少社会では海外に活路を求めるのは、やむを得  ない。保護貿易の議論は別にしても、ことさらTPP  のメリットばかりを唱える政府には違和感を禁じ得ない。   日本の経済効果は7兆8千億円、、、。  雲をつかむような数字が羅列される一方、目に見える  確かな現実が農山漁村の衰退である。  高齢化や担い手不足にあえぎ、耕作放棄地も増え続け  る。漁業や林業を含め第1次産業が中心の地方にとって  は、コミュニティー存亡の危機とも言えよう。   強者の論理を改めて感じたのは、国連の「小農宣言」  採決を先日棄権したことである。  家族経営や兼業など比較的規模の小さな農家への財政  支援を各国に求める内容だ。ビジネスとは一線を画し、  代々の土地を守る農の営みをどう保つか。  棚田のような耕作条件が厳しい土地を多く抱える中国  地方の中山間地域の農家は、同じ訴えを政府にぶつけ  てきた。棄権という選択は理解に苦しむ。

 

違法な販売取引と被害者側の過失

 

 ☆化粧品の連鎖販売で「絶対にもうかる」

    「働かなくても稼げる」と若者勧誘
    化粧品会社の一部業務停止
      京都新聞 2018年12月05日

  滋賀県は5日、「絶対にもうかる」などとして化粧
 品の連鎖販売取引マルチ商法)に契約させたのは
 特定商取引法違反(迷惑勧誘など)にあたるとして、
 金沢市の化粧品販売会社「セリュール」に対し、県内
 での新規勧誘など一部の業務を3カ月間停止するよう
 命じた。

  1人紹介すれば8万円の報酬が得られると誘って、
 利益が確実であるかのように誤解させ、約50万円で
 会員登録を行っていた。

   

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 ☆連鎖販売取引   マルチ商法といわれる販売方法では、商品を購入した  者が販売員にもなって、新たな購入者を増やし販売網を  連鎖的に広げていく。 この場合、商品やサービスを提供する限りは合法とされ  ているが、金銭の配当だけを目的として無限に会員を集  める「ねずみ講」は違法である。(コトバンク)   ただ、ねずみ講ではなくとも不当な勧誘による連鎖  販売取引があり、特定商取引法違反として行政処分など  が行われる。  相手方に契約を解除させないようにするために嘘をつく、  威迫して困惑させる、勧誘目的を告げないなどの行為が  禁止されており、行政処分・罰則の対象になる。   行政上の規制とは別にトラブル解決のため、特定商  取引法は、クーリング・オフ制度、意思表示の取消し  制度を定めている。  ☆違法な取引と損害賠償請求   故意や過失にもとづく違法な行為により損害を受けた  場合、加害者に対して損害賠償を請求できる。  これに対して会社側は、違法な行為ではないと主張し、  被害者側に賠償請求権があるかなどを争うことがある。   さいたま地裁の裁判で会社側は、虚偽の事実を申告し  ていた被害者側が損害賠償請求をすることは信義則に  反すると主張している。   平成18年7月19日 さいたま地裁 判決   連鎖販売取引の裁判において、通信販売事業として確  実に利益を上げることができる等と勧誘していた業者に  対して違法な取引であると認めて損害賠償を命じられた。   通信販売事業としては実体がないのに、オーナー契約  を締結させて高額な契約金を支払わせていた。  次々とオーナー契約を締結し続けなければ、利益を確保  することもできないことが明らかであるのに十分な説明  を行っていない、と認定されている。  (被告会社の主張)   被告会社においては、未成年者や保護者の同意承諾の  ない学生はオーナーになれないとして取り扱っていたが、  原告らは学生でないと虚偽の事実を申告していたもので  あって、損害賠償請求をすることは信義則に反する。  裁判所の判断   被告らは犯罪行為と把握できるほどの違法性の高い  取引行為を持ちかけて、不当な利益を得ようと企てたの  であり、被告らの違法性に比して原告らのそれは非常に  軽微である。  被告会社が目論んでいた違法な契約自体が、原告ら第三  者に虚偽の事実を申し述べさせることを元々想定し、  それを前提として仕組まれていたともいえる。   被告らの責任を軽減することは、むしろ公平とは言い  難いと考えられる。

 

労働者が使用者の命令に従うべき義務

 ☆ひげを生やして勤務する運転士

      「ひげ生やすのは個人の自由」
      人事の低評価に賠償命令
        NHK 2019年1月16日

  大阪市営地下鉄の運転士らがひげを生やして勤務し
 ていることを理由に、最低の人事評価にされたのは
 不当だと訴えた裁判で、大阪地方裁判所は「ひげを生
 やすかどうかは個人の自由で、人格的な利益を侵害し
 違法だ」として、大阪市に40万円余りの賠償を命じま
 した。

  この裁判は3年前、当時の大阪市営地下鉄の運転士、
 河野英司さんら2人が、ひげを生やして勤務している
 ことを理由に、人事で最低評価にされたのは不当だと
 訴えて大阪市に賠償を求めたものです。


 ☆批判的な意見

  この判決に対しては、批判的な意見も出ています。

 「地下鉄運転手という接客も含まれる仕事である。
  身だしなみを整えるルールは必要であろう。

  実際、市民からも批判的な意見が出ていた。」


  しかし、労働者と使用者との関係については以前
 から慎重な配慮が求められている。

  労働者は、企業秩序維持のため必要な命令に従う
 べきであるが、使用者の一般的な支配に服するもので
 はない、という考えです。

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 ☆身だしなみの規則  (上のニュースには次のような説明が続いている。)   大阪市交通局は、平成24年に男性職員にひげをそる  よう求める「身だしなみ基準」を設けていて、裁判で  はこの基準の是非などが争われました。   16日の判決で大阪地方裁判所の内藤裕之裁判長は  「清潔感を欠くとか、威圧的な印象を与えるなどの理  由から地下鉄の乗務員らにひげをそった状態を理想的  な身だしなみとする基準を設けることには必要性や  合理性があるが、この基準はあくまで職員に任意の協  力を求めるものだ」と指摘しました。  そのうえで「ひげを生やすかどうかは個人の自由で、  ひげを理由にした人事評価は人格的な利益を侵害し  違法だ」として、大阪市に慰謝料として40万円余りを  支払うよう命じました。  ☆過去の裁判では   「労働者は、全人格を使用者に売り渡しているので  はないから、使用者に対し無定量の忠実義務ないし  絶対的な服従義務を負うものではない」と表現した  事例もある。   昭和52年12月13日 最高裁 判決  (他の従業員の就業規則違反についての      調査に協力すべき義務を負っているか)   企業が企業秩序違反事件について調査をすることが  できるということから直ちに、労働者が、これに対応し  て、いつ、いかなる場合にも、当然に企業の行う調査に  協力すべき義務を負っているものと解することはでき  ない。   労働者は、労働契約を締結して企業に雇用されること  によって、企業に対し労務提供義務を負うとともに、  これに付随して、企業秩序遵守義務その他の義務を負う  が、企業の一般的な支配に服するものということはでき  ないからである。   平成9年12月25日 福岡地裁小倉支部 決定  (髪の毛を染めて勤務したことを取引先          から好ましくないと指摘された)   一般に、企業は、企業内秩序を維持・確保するため、  労働者の動静を把握する必要に迫られる場合のあること  は当然であり、このような場合、企業としては労働者に  必要な規制、指示、命令等を行うことが許されるという  べきである。   しかしながら、このようにいうことは、労働者が企業  の一般的支配に服することを意味するものではなく、  企業に与えられた秩序維持の権限は、自ずとその本質に  伴う限界があるといわなければならない。  特に、労働者の髪の色・型、容姿、服装などといった人  の人格や自由に関する事柄について、企業が企業秩序の  維持を名目に労働者の自由を制限しようとする場合、そ  の制限行為は無制限に許されるものではない。  企業の円滑な運営上必要かつ合理的な範囲内にとどまる  ものというべく、具体的な制限行為の内容は、制限の  必要性、合理性、手段方法としての相当性を欠くことの  ないよう特段の配慮が要請されるものと解するのが相当  である。

 

労働者に当たるかどうかの判断

 

 ☆NHK受信料徴収の地域スタッフは「労働者」

      NHKの不当労働行為を認定
      団交拒否、東京地裁
       共同通信 2018/09/28

  労働組合との団体交渉に応じなかったことを「不当
 労働行為」と認定した中央労働委員会の判断には事実
 誤認があるとして、NHKが取り消しを求めた訴訟の
 判決で、東京地裁は28日、請求を棄却した。

  団体交渉を求めたのはNHK受信料の徴収を担当す
 る地域スタッフでつくる「全日本放送受信料労働組合」。

  NHKは、スタッフは独立した事業者で労働組合法
 上の「労働者」には当たらないと主張。

 佐久間健吉裁判長は、目標達成の報告を求めているこ
 となどから「労働者性が認められる」と判断し、正当
 な理由なく団交を拒否したと結論づけた。



 ☆労働者かどうか

  一般の雇用契約でも、「労働者」に当たるかどうかの
 問題があります。

 例えば、管理職と呼ばれていても労働基準法にいう「管
 理監督者」に当たるかどうかが争われる。

 残業手当や休日の扱いが一般の労働者と管理監督者とで
 は異なるが、「名ばかり管理職」といわれて権限などが
 ないにもかかわらず、労働者保護を受けないような扱い
 をすることがある。

  使用者に残業手当の支払義務があるかが問われて、管
 理監督者ではない、「労働者」に当たると判断される
 ケースがある。

  また、アルバイト店員らが加入する労働組合が労働組
 合法で保護される労働組合であるかどうかの争いもある。


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 ☆業務委託契約の受託者   今回問題になっているのは、雇用契約ではない。  業務委託契約を結んでいる受託者が労働組合法上の労働  者に当たるかどうかをめぐって訴訟になっている。   この「労働者に当たるか」については、契約の形式が  どうか、雇用か業務委託かあるいは個人営業者の請負か  ということにかかわらず、仕事の実態で判断されること  になっている。  ☆「労働者」か否かの判断事例  (通常の雇用契約の形式を取らず、外部から業務   の提供を求める場合でも、その労働の実態を踏   まえて「労働者」か否かを判断されている)    民間放送会社の放送管弦楽団員が労働    組合法上の労働者に当たるかどうかが    争われた    昭和51年5月6日 最高裁 判決  (1)放送会社が一方的に指定して出演を求め、    楽団員はこれに応ずべき義務を負っていた  (2)出演の報酬は演奏労務を提供する対価と認    められる   こうした理由から、その楽団員は労働組合法が   適用される労働者である、と判断されている。   要 旨   民間放送会社とその放送管弦楽団員との間で   放送出演契約が締結されていた。   その楽団員には、その放送会社が必要とする   ときに会社が一方的に指定して出演を求める   ことができ、楽団員は原則としてこれに応ず   べき義務を負うという関係が存在していた。   しかも、楽団員に対する出演報酬は演奏自体   の対価とみられるものであり、芸術的価値を   評価するとは認められない。   こうした場合には、その楽団員は労働組合法   の適用を受ける労働者に当たる。

 

ゲームなどの利用規約に違法性がある

 

 ☆オンラインなどの利用規約に同意すると

  利用規約に同意しなければ、次に進めない。しかし
 内容は長文で、しかも専門用語が多用されて難解。

 注意して読むこともなく、つい「同意」をクリックす
 ることになるが、利用規約に同意したがために思わぬ
 損害を被ることがある。

 「フェイスブック」の利用者から個人情報が流出した
 という問題が起こっている。

  利用者は、どのサイトを閲覧すればどういう個人情
 報を提供することになるのか注意する必要がある。

  サービス提供者は、利用者を保護するために具体的
 な措置をとるよう迫られている。違反行為を監督し、
 必要な対策をとるべき責任がある。

  また、分かりやすい規約づくりに取り組むこと。簡
 潔に要約するなど誰でも分かるよう平易にすることが
 求められる。


    フェイスブックのデータ不正共有
    疑惑「8700万人に影響」
    BBCニュース 2018年04月5日

  フェイスブックは4日、最大でフェイスブック利用
 者8700万分のデータが選挙コンサルティング会社の
 英ケンブリッジ・アナリティカにより不適切に共有
 されただろうと発表した。

  フェイスブックマーク・ザッカーバーグ最高経営
 責任者(CEO)は「明らかにもっと対策が必要だった。
 これから進めていく」と述べた。

 記者会見の中でザッカーバーグ氏は、フェイスブック
 は利用者に道具を提供しているのであって、使い方を
 決める主な責任は利用者自身にあると、以前は考えて
 いたと話した。

 しかし同氏は、そのような狭い考え方は「振り返って
 みると間違いだった」と付け加えた。

  「私たちはツールを構築しているだけではなく、人
 がそのツールをどう使い、その結果どうなるかついて
 も、全面的な責任を取る必要がある」


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 ☆利用規約の免責規定   利用者に損害が生じた場合でも会社は責任を負わな  いという規定が問題になっている。  規約の免責規定が法律に背いている場合には、当然  効力がない。  消費者契約法違反、民法公序良俗違反などを理由に  削除を求める裁判がある。       モバゲー利用規約「違法」       弁護士らDeNAを提訴        産経新聞 2018.7.9   IT大手ディー・エヌ・エー(DeNA)運営の  ゲームサイト「Mobage」の利用規約は違法だ  として、埼玉県内の弁護士らで構成するNPO法人  「埼玉消費者被害をなくす会」が9日、同社に規約  の使用差し止めを求める訴訟をさいたま地裁に起こ  した。   訴状によると、利用規約には、DeNA側に故意  や過失があった場合の説明をせずに「社は一切責任  を負わない」「一切損害を賠償しない」と定めた条  項があり、消費者契約法に違反するとしている。  2016年以降、DeNAに過失がある場合には同  社が責任を負うと分かるように個別の条項を変更す  るよう申し入れていたが、DeNAは同社に故意や  過失があった場合の賠償に関しては別の条項で定め  ているとして受け入れなかった。   ☆ツアー参加の規約に免責条項     ツアーの「事故は自己責任」削除     免責条項訴訟で和解、神戸地裁        共同通信 2018/8/17   ツアー参加者に「事故は全て自己責任」との免責  条項を含む同意書への署名を強要するのは消費者契  約法に違反するとして、適格消費者団体「ひょうご  消費者ネット」が、アウトドア用品大手「モンベル」  の関連会社に条項使用差し止めを求めた訴訟は17日  までに、条項を削除することで神戸地裁で和解した。   訴状によると、被告は登山などのツアーを企画す  る「ベルカディア」。同意書では、生命や身体など  に被害が生じた場合に「責任追及は放棄し、全て自  己責任とする」と規定。署名しなければ参加できな  いと説明していた。  ☆消費者契約法  (事業者の損害賠償の責任を免除する条項の無効)  第8条  1.次に掲げる消費者契約の条項は、無効とする。  一 事業者の債務不履行により消費者に生じた損害を   賠償する責任の全部を免除する条項  二 事業者の債務不履行(故意又は重大な過失による   ものに限る。)により消費者に生じた損害を賠償   する責任の一部を免除する条項

 

労災認定請求を認められない労働者がある?

 ☆非常勤職員の労災請求が認められない

    公務災害 申請に「格差」
    非常勤職員 認められないケースも
      東京新聞 2018年8月6日

  自治体で働く非常勤職員が、常勤ならできる公務
 災害の認定を申請できないケースがある。福岡地裁
 では、北九州市の非常勤職員として働いていた女性
 が自殺した後、パワハラなど不適切な労務管理が
 原因だと考える両親が申請を認められなかったこと
 の不当性を問い訴訟中だ。

 非常勤職員などの労働問題に取り組むNPOの調査
 によると、自治体の対応はまちまちで、国に法改正
 を求める声が上がる。


  両親が一六年八月、労災認定について市に尋ねる
 と、市は「申請は認められていない」と回答。市に
 よると、非常勤の労災について本人や家族からの
 認定請求の規定を条例や施行規則で定めておらず、
 事実上、職場が認めた場合以外は申請の道が閉ざさ
 れる。

  佃弁護士は「非常勤であれば、公務災害に遭って
 も労災隠しさえできてしまう制度で、他自治体でも
 起こり得る」と批判する。


    非常勤の労災請求、認定の仕組みを
    総務省が全国に要請
       朝日新聞 2018/8/31

  自治体で働く職員が仕事上の原因で病気やけがを
 した際の公務災害(労災)認定について、総務省は、
 非常勤職員も認定を請求できる仕組みを整えるよう
 全国の自治体に求めた。

 一部の自治体では非常勤職員に認定請求の権利を認
 めない運用をしており、常勤職員との格差が問題と
 なっていた。


  うつ病になり、2015年に亡くなった北九州市
 の元非常勤職員の事例でも、市が遺族の労災請求を
 拒んでいた。

 一方、常勤職員は、第三者機関の地方公務員災害補
 償基金に労災請求の手続きをとるよう法律で定めら
 れている。


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 ☆制度の不備   この件は格差問題というよりも制度の不備と  いう認識です。  北九州市の元非常勤職員の場合、本人や家族から  の申請を受け付けず、市だけの判断で上司らへの  聞き取りを行い「パワハラはなかった」という。   これでは市の都合により運用する危険性があり、  上の佃弁護士が言われる労災隠しを招きやすい。   労災保険は、本来労働者の負傷、死亡等に対し  て迅速かつ公正な保護をするための制度であり、  労働者であれば全てが対象となる。  対象は正社員かどうか、仕事の内容などを問わな  い。アルバイト、日雇、外国人労働者でも適用さ  れる。   <労災認定請求の手順>   労働者災害補償法では、労災の判断は労働基準署長が  判断することになっている。  事業主であれば、マイナスになるような判断は避けたい  から、労災を認めたくない。   従って、この認定には不服申立てが制度化されている。  決定に不服のある場合は、各都道府県労働局に置かれる  労働者災害補償保険審査官に審査請求ができる。  <地方公務員の災害補償>   地方公務員については、別に地方公務員災害補償  法に規定されている。  非常勤職員についても労災補償法の補償制度と同様の  保護規定を定めるよう求めており、認定請求から認定  結果の通知までの手続制度を定めなければならない。  その際、労災隠しが起こらないよう第三者機関に不服  申立てができるようでなければ公正な保護制度として  の意味がない。   基本が、全ての労働者に対して迅速、公正な保護を  するための制度であるから、特定部門の職員について  認定制度がないことは考えられない。

 

交通事故加害者の責任と被害者保護

 ☆米軍トラック運転の死亡事故

      飲酒運転・死亡事故の米兵に
      懲役4年判決 那覇地裁
       沖縄タイムス 2018/04/11

  昨年11月那覇市内で酒気を帯びて米軍のトラック
 を運転し、死亡事故を起こしたとして、自動車運転
 処罰法違反等の罪に問われた米海兵隊所属の上等兵
 の判決公判で、柴田寿宏裁判長は懲役4年を言い渡
 した。

  判決などによると、被告は酒気を帯びた状態で
 米軍トラックを運転し、那覇市の交差点の赤信号を
 見過ごしたまま、同市の男性会社員が運転する軽
 トラックと衝突。男性は胸部圧迫などで死亡した。



 ☆沖縄米海兵隊は「個人の責任」と説明

  この事故について、県議会の代表者が抗議した
 のに対して、米海兵隊側は、個人が起こしたこと
 で組織として責任を負うものではないと説明した。

 公用車の鍵をしっかり管理しているが、彼は勝手
 に持ち出したという。
     (沖縄タイムス 2017年12月5日)

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 ☆交通事故による被害者を保護   損害補償についての日米の協定等は別にして、一般  の事故の場合、被害者、加害者とその使用者の関係は  どう扱われるのか。   会社の従業員が交通事故などを起こして他人に損害  を与えた場合、まず加害者本人が賠償しなければなら  ない。  しかし、損害の補償を考えると被害者に十分なことが  できるか疑わしい。そこで、被害者保護のための法整  備がされている。   一つは、自動車損害賠償保障法の「運行供用者責任」  という規定で、もう一つが民法使用者責任である。   従業員は資力が十分でないことを考慮して、責任の  負担者を広げ、被害者に有利な規定になっている。  ☆運行供用者責任   会社が所有する自動車を従業員が私用で運転し、  交通事故を起こしたという場合、加害の従業員だけ  でなく運行供用者もその責任を負う。  無断で社用車を利用していた場合でも、運行供用者が  賠償責任を問われる。  この場合に被害者の立証責任は軽減され、損害賠償  請求が容易になっている。   運行供用者とは、自動車の運行を支配し利益を得て  いる者と定義される。  この運行供用者責任は、自動車事故による人身損害に  限られる。  ☆使用者責任   使用者は、従業員が第三者に加えた損害について、  その賠償責任を負う。  加害者である従業員は資力が十分でないことが多い。  そのため使用者にも責任を負わせ、被害者の保護を  図っている。   使用者は従業員を使用して利益を得ている。損失が  あっても、負担をすべきであるという考えに基づいて  いる。   「ある事業のために他人を使用する者は、被用者が  その事業の執行について第三者に加えた損害を賠償す  る責任を負う」と、使用者責任を規定している。  問題となるのは、「事業の執行について」どう判断す  るかであり争いが多い。   営業マンが詐欺を働いて会社の責任を問われた場合  に、本来業務と関係がない、個人の犯行であると主張  することがある。  しかし、この「事業の執行について」は、その社員が  行った行為が外形的に職務の範囲内に属すると認めら  れるかどうかであり、真の担当業務の如何を問わない。  ☆交通事故の損害について   使用者責任が認められた事例   会社の従業員が私用のために会社の自動車を運転し  た場合であっても、民法第七一五条の「事業ノ執行」  につきなされたものと認めるのが相当である。   昭和37年11月8日 最高裁 判決  理由   Dが会社の業務用自動車を運転して進行中、注意  義務を怠って本件事故を起すに至った。  Dは商品の外交販売に従事し、仕事上の必要に応じ  随時その自動車の使用を許されていた。   事故を起した自動車はDの専用ではなく、使用し  たのは勤務時間後のことであり、使用目的も恣意的  なものであった。  であっても、外形的にみればDのこの行為は、会社の  運転手としての職務行為の範囲に属するものとして、  会社の事業の執行と認めることの妨げとなるものでは  ない。