文化財の価値を守る、文化環境を伝承する
☆邸宅を宿泊施設に、古墳に案内施設も 文化財で地域おこし 保護から活用へ法改正 東京新聞 2017年8月12日 歴史的な建物や史跡などを生かした地域振興が進 めやすくなるよう、文化庁は十一日、文化財保護法 を大幅に改正する方針を決めた。 市町村が地域の 文化財の保護・活用に関する基本計画を定め、国の 認定を受けることを条件に、国指定文化財の改修な ど現状変更を許可する権限を文化庁長官から市町村 長に移譲。補助金や税制優遇で観光やにぎわいづく りのための活用を後押しする。 旧家の邸宅など個人が所有する文化財の場合、維 持するだけでも負担が大きいため、地域ぐるみで保 護と活用に取り組む仕組みをつくる。 権限移譲により、邸宅を結婚式場や宿泊施設として 使う目的で改修したり、城跡や古墳に案内施設を設 けたりといった現状変更が市町村の判断でできるよ うになる。収益を維持管理に充ててもらう狙いもある。 ☆文化財を単なる観光資源と見なす風潮 文化財保護法/活用は手厚く守ってこそ 西日本新聞 2018/4/29 気掛かりなのは、政府の姿勢があまりにも「活用 重視」に傾いていることだ。 法改正の背景には、 訪日外国人客を対象とした観光資源として、文化財 の活用を進める現政権の「観光立国」という戦略が ある。 地方創生担当相が昨年、「一番のがんは文化学芸員。 観光マインドが全くない」などと暴言を吐いたこと は記憶に新しい。 文化財を単なる観光資源と見なす風潮が、法改正の 底流にあるとすれば、看過できない。 自治体が文化財の保護と保全に万全を期すためには、 専門職の養成と配置が欠かせない。 その余裕がない小規模な町村には、財政と人材の 両面で支援する必要がある。こうした手当ては大丈 夫なのか。 集客が見込める建造物などが大切にされ、古文書な ど地味な文化財が軽視される傾向が生じないか。 また、首長が活用にはやり、保護がおざなりになる 懸念も拭えない。地方の文化財保護審議会などで厳 しくチェックする必要があるだろう。 地域の文化財を未来へ継承することは地域の責務 だ。手厚く保護してこその活用である。
☆文化財が軽視される恐れ 上の主張では、まず「文化財を単なる観光資源と見 なす風潮が、法改正の底流にあるとすれば、看過でき ない」とある。 このことは、「観光客が増えて、文化資産や地域の 環境が損なわれる恐れ」として、古くから指摘されて きているという。 「観光による、いわば『文化の商品化』で、文化の本 質的な価値が失われかねない。文化保護と観光開発は 往々にして相反する。」(京都新聞 2017年04月23日) 「持続可能な文化観光」のために、文化財保護に必要 な専門職員と行政能力、予算が欠かせない。 小規模組織の自治体では保存のための余裕がない。 「地方創生とは稼ぐこと」と要求する。国に与えら れた一極集中是正の課題に注力することなく、逆に地 方の努力を求めるものである。 権限移譲すれば収益が増え、地域振興にも活用できる という狙いには無理がある。 結局、文化財が軽視されるのではないかということが 懸念されている。 ☆文化財保護には、財政と人材面での支援が必要 文化財の活用 万全の保存あってこそ 朝日新聞 2017/12/19 「観光立国」のためならば、多少の疑問や危うさ には目をつぶる、ということか。 文化庁の審議会が、文化財に関する様々な規制を緩 め、地域おこしなどにも活用できるよう促す答申を 出した。 保存に重点をおいてきた従来の方針からの転換だ。 研究者団体などの慎重意見もあるなか、約半年の議 論でスピード決着させた。 この国の文化財の多くはもろく、すぐに劣化する。 活用に傾くあまり、保存がなおざりになれば、取り 返しがつかない事態を招きかねない。 急ぐべきは、両者のバランスを判断する力をもつ 専門家の育成と配置、そしてその能力を発揮できる 環境づくりである。 思い出すのは「一番のがんは学芸員。観光マインド が全くない。この連中を一掃しないと」という、4 月の山本幸三・前地方創生相の暴言だ。 学芸員の 仕事に対する理解を欠き、先人が長年守ってきた遺 産を、単なる金もうけの道具としかとらえない考え が透けて見えた。 最近は文化庁も「文化でかせぐ」をアピールする。 だが、目先の利益とは別の価値を大切にし、その意 義を説くことこそ、本来の役割ではないか。 国や都道府県は市町村をどうチェックし支えるか。 いかなる予算措置が必要か。文化財行政が首長の傘 下に移ったとき、観光・開発優先に走ったり専門職 員の声が届きにくくなったりする危険をどうやって 防ぐか。