中学時代のいじめ被害で訴訟
☆中学の同級生からいじめ 28歳、中学時代のいじめで提訴 「働けない」と卒業生の男性 共同通信 2018/3/26 兵庫県福崎町の町立中に在籍した3年間にわたり、 同級生から暴行などのいじめを受けたのに、学校が 十分に対応せず、心的外傷後ストレス障害(PTSD) を発症し働けないとして、卒業生の男性(28)と母 親が26日、同級生だった男性と両親、町に計約2億 円の損害賠償を求め、神戸地裁姫路支部に提訴した。 訴状によると、原告男性は2002年に入学。3年間 を通じて元同級生から殴ったり蹴ったりされる暴行 などの被害を受け、別々の高校に進学した後も嫌が らせが続いて高校の長期間休学や大学の中退を強い られたと主張。14年にPTSDと診断され、仕事に就く ことができないとしている。
☆いじめ被害で働けない 中学時代のいじめが後々にも続き、PTSDを発症して 働けなくなったという訴えですが、中学卒業から10年 以上経過している。 学校は全力で対応した、提訴に驚いていると説明し ている。 他方、原告側は「学校は加害者を擁護した。原告を隔 離して、組織ぐるみの迫害があった」と主張し、診断 を受け弁護士に相談して提訴に踏み切った、という。 不法行為を受けた被害者は、3年間という消滅時効の 期間内に損害賠償の請求をしなければならない。 今回の賠償請求は認められるのか、特に消滅時効の起 算時点をいつと判断されるか。 PTSDと診断されて弁護士に相談し、提訴したという ことが消滅時効の進行においてどう解釈されるか。 被害者が損害の発生を現実に認識した時がいつになる かで結論が分かれる。 ☆賠償請求権の消滅時効 不法行為による損害賠償の請求権は、被害者又はそ の法定代理人が損害及び加害者を知った時から三年間 行使しないときは、時効によって消滅する。不法行為 の時から二十年を経過したときも、同様とする。 (民法724条) 「損害及び加害者を知った時から三年間行使しない ときは、時効によって消滅する」という規定について、 具体的に次のように説明されている。 *損害を知った時 最高裁 平成14年1月29日 判決 民法724条にいう「被害者が損害を知った時」とは、 被害者が損害の発生を現実に認識した時をいうと解 すべきである。 不法行為の被害者は、損害の発生を現実に認識して いない場合がある。損害の発生をその発生時におい て現実に認識していないことはしばしば起こり得る ことである。 民法724条の短期消滅時効の趣旨は、被害者が不法 行為による損害の発生及び加害者を現実に認識しな がら3年間も放置していた場合に加害者の法的地位 の安定を図ろうとしているものにすぎず、それ以上 に加害者を保護しようという趣旨ではない。 *加害者を知った時 最高裁 昭和48年11月16日 判決 民法七二四条にいう「加害者ヲ知リタル時」とは、 同条で時効の起算点に関する特則を設けた趣旨に鑑 みれば、加害者に対する賠償請求が事実上可能な 状況のもとに、その可能な程度にこれを知った時を 意味するものと解するのが相当である。 ☆後遺症の場合の原則は 「加害者に対する賠償請求をすることが事実上可能 な状況の下に、それが可能な程度に損害及び加害者を 知った」のはいつなのか。 (後遺障害の症状固定診断の時 から消滅時効が進行するという判決) 最高裁 平成16年12月24日 判決 被上告人は、本件後遺障害につき平成9年5月22日 に症状固定という診断を受け、これに基づき後遺 障害等級の事前認定を申請したというのであるから、 被上告人は遅くとも上記症状固定の診断を受けた 時には、本件後遺障害の存在を現実に認識し、加害 者に対する賠償請求をすることが事実上可能な状況 の下に、それが可能な程度に損害の発生を知った ものというべきである。 症状固定の診断の後、申請した自動車保険料率算定 会による等級認定は、保険金額を算定することを 目的とする損害の査定にすぎない。 被害者の加害者に対する損害賠償請求権の行使を何 ら制約するものではないから、消滅時効の進行に 影響しない。 *この判決によると、「損害を知った時」とは損害の 程度や金額まで知る必要はない。後遺障害の等級 認定手続をしても消滅時効の進行を遅らすことに ならない。 ☆特別の事情があるとき しかし、特別の事情があるときは時効による消滅の 効果に影響する。 予想できなかった後遺症が発症した場合は、示談成立 後にも賠償請求ができるとする判決がある。 (示談成立後でも、当時予想できなかった 後遺障害が発症した場合、損害賠償を請求できる) 昭和43年3月15日 最高裁 判決 交通事故による全損害を正確に把握し難い状況の もとにおいて、早急に小額の賠償金をもって示談 がされた場合において、示談によって被害者が 放棄した損害賠償請求は、示談当時予想していた 損害についてのみと解すべきであって、その当時 予想できなかった後遺症等については、被害者は 後日その損害の賠償を請求することができる。 ☆違法の可能性があると認識できた時から 消滅時効の起算時点をいつにするかを争点とする 裁判で、違法の可能性があることを認識できた時 (=弁護士から指摘された時)を起算点とすべきと いう最近の判決がある。 商品先物取引により損失を被ったことを知ったと いうことだけでは、損害賠償請求が可能な程度に 損害、加害者を知ったとはいえない、とされた。 (損害及び加害者を知った時について) 名古屋高裁 平成25年2月27日 判決 取引に関して違法なものである可能性があること を認識できた時をもって、事実上可能な程度に 損害及び加害者を知ったものというべきである。 控訴人は、弁護士から本件取引による損失につい て、違法な商品先物取引による被害である可能性 がある旨指摘されたことによって、不法行為によ る損害賠償請求権についての損害及び加害者を知 ったものである。 従って、民法724条前段による3年の消滅時効期間 は、(弁護士から指摘された)平成23年3月4日か ら進行するというべきである。 (取引終了からは9年経過)