定額払い固定残業代制度の問題
☆残業手当の新制度 トヨタ自動車が新人事制度導入へ CBCテレビ 2017/10/14 トヨタ自動車は入社10年目以降の社員を対象に、 実際の残業時間に関係なく、毎月17万円を残業 手当として一律に支給する制度を導入することを決 めた。 新しい制度は、入社10年目以降の主任職は本人 が希望し承認されれば、実際の残業時間に関係なく 17万円を支給される。 これは主任職の平均で残業手当45時間分にあた り、残業を少なくすればするほどメリットがある 仕組み。残業が45時間を超えた場合、手当は上乗 せされる。 導入は今年12月の予定で、トヨタ自動車は 「賃金は労働時間の対価であるという考えを払拭し、 メリハリある働き方につなげたい」としている。
☆固定残業代制度の特徴 固定残業代(定額払い)制度は、基本給や手当など に一定時間分時間外労働等の割増賃金を含めて支給す る制度。 労働基準法に反することはないが、使用者側が残業代 等の割増賃金を支払わないようにするための方策に 悪用されているケースが多い。 残業を少なくすると利点をいう人もいる。「脱時間 給」と報道する新聞もある。 ただ、企業としては主に給料計算のコストを抑える効 果を期待している。 残業代を削減するために悪用されるケースも多いと言 われている。 実際に残業を行っていてもその割増賃金を正当に支払 わず、「固定残業代として残業代を払っている」と 主張し争いになっている。 ☆労基法の割増賃金との関係 この固定残業代制度が認められるためには、次の ような要件を備えなければならない。 *固定残業代制度を採用することが労働契約の内容 となっていること *通常の労働時間に対する賃金部分と固定残業部分 が明確に区別されていること *通常の労働時間に対する賃金により計算した割増 賃金とを比較対照できること *実際の残業時間数が、標準残業時間数を超えた場 合には、労働基準法によりその超えた部分の割増 賃金を支払うこと ☆裁判事例 労基法の割増賃金に代わる定額払いの 固定残業代とは認められないとされた 平成25年2月28日 東京地裁 判決 概 要 I T 関連の企業に正社員として入社していたが、 会社の給与規程には、超過勤務手当に代えて精勤 手当を定額で支給すると規定していた。 労基法の割増賃金に代えて基本給などに含めて定額 払いの残業代とする制度が有効か争われた。 判決理由 次の要件を備えているか (1)当該手当が実質的に時間外労働の対価として の性格を有していること (2)定額残業代として労基法所定の額が支払われ ているか否かを判定することができるよう、 その約定(合意)の中に明確な指標が存在して いること 要件(1)について 精勤手当は年齢、勤続年数等により数回変動して おり、時間外労働の対価としての性質以外のものが 含まれているものとみるのが自然である。 また、時間外労働の対価以外に合理的な支給根拠、 目的を見出すことができない性質の手当であるとは いい難い。 要件(2)について 支給額に固定性(定額制)が認められ、かつ、 その額が何時間分の時間外労働に相当するのかが 指標として明確にされていることが必要である。 ところが、固定性(定額制)に疑問がある。 また、その合意中に支給額が何時間分の時間外労働 に相当するものかを明確にする指標を見出すことは できない。