こんなはずではなかった、動機の錯誤
☆契約の前提が違う 婚約相手の前妻と離婚が成立していると信じて婚約 したのに未だ成立していなかった、というケース。 独身であると認識していたことは当然の前提であり、 この婚約は錯誤無効と認められている。 また、新築マンションを購入した買主が、耐震強度 に偽装の疑いがあることが発覚したために、分譲契約 の錯誤無効を主張して提訴した。 裁判では、耐震性不足があったことは売買契約を締結 する上で極めて重大な問題であり、錯誤の要素性を満 たしていると認められた。 売買契約において原告らの意思表示は無効であり、 被告は売買代金を返還する責任を負う、とされた。
☆動機の錯誤とは 民法では、法律行為の要素に錯誤があるときに限り 無効としている。(95条) ところで、動機の錯誤については裁判で無効と認め る例は少ないといわれている。 認められるのは、動機が相手方に対して表示されてい たり相手方も承知しているなど、もし錯誤がなかった らその意思表示をしなかったであろうと認められる場 合である。 動機が明示されていないが、黙示的に表示されている ときでも要素の錯誤として無効となる場合がある。 ☆錯誤無効が認められた事例 平成22年4月22日 札幌地裁 判決 本件各売買契約においては、売主である被告は、 建築基準法令所定の基本的性能が具備された建物 である事実を当然の大前提として販売価格を決定 し、販売活動を行った。 原告らもその事実を当然の大前提として分譲物件 を買い受けたことに疑いはない。 ところが、本件各売買契約においては、客観的 には耐震偽装がされた建物の引渡しが予定されて いた。 であるのに、売主も買主も、これが建築基準法令 所定の基本的性能が具備された建物であるとの誤 解に基づき売買を合意したことになる。 売買目的物の性状に関する錯誤(いわゆる動機に 関する錯誤)があったことになる。 新築マンションにあっては、耐震強度に関する 錯誤は、錯誤を主張する者に契約関係から離脱す ることを許容すべき程度に重大なものというべき であり、民法95条の錯誤に該当するものと認め るのが相当である。 したがって、本件各売買契約に係る原告らの買受 けの意思表示は無効であり、被告は原告らに対し 売買代金を返還する責任を負う。