収賄事件で退職金の返還は?
<退職金返還命令> 伊勢崎市 収賄有罪判決の元部長に 退職金返還命じる 東京新聞 2016年10月29日 伊勢崎市は二十八日、市発注の工事を巡る贈収賄事件 で一審で有罪判決を受けた金井哲夫元建設部長(61) に対し、条例に基づき既に受け取った退職金を全額返還 するよう命じた。市は金額を明らかにしていないが、約 二千五百万円程度とみられる。 市が元職員に退職金返還を命じるのは、この条例が制 定された二〇〇八年以来初めて。条例では、在職中に 懲戒免職に相当するような行為があったり、在職中の 行為で禁錮以上の刑事処分を受けたりした場合は退職金 返還を命じることができる。 金井元部長は一三年五月と七月、道路などの補修工事 を市内の土木工事会社が受注できるよう便宜を図った見 返りに、同社の元役員=贈賄罪で有罪確定=に車購入代 金や車検代を支払わせ、現金計七十四万六千百五十円を 受け取ったとして収賄罪に問われた。先月三十日、前橋 地裁は金井元部長に対し、懲役一年六月、執行猶予三年 追徴金七十四万六千百五十円の判決を言い渡した。
<元職員の生活は> 退職金の返還を命じるといっても、市と元職員に法律 関係はないから、返還を請求して応じない場合は裁判を 起こすものと考えられる。 たしかに収賄事件で有罪になったから、市に大きな損害 を与えた人ですが、本人にも生活がある。 懲戒解雇などで退職金を支払わない、返還を求めると いうケースはよく報道されています。 ただ、裁判では退職金返還について慎重な判断がされて いる。 問題は退職金の性格です。 退職金には功労報償的な面もあるが、賃金の後払い的な 意味があり、退職後の生活保障的な機能を果たすことも あると理解されている。 <懲戒処分と退職金不支給> 例えば、飲酒運転で懲戒免職となった岩手県の元教諭 への退職金の支払いなどを巡って争われた裁判で仙台高 裁は、懲戒免職の取り消しは認めなかったが、退職金を 支給しなかった処分を取り消した。 「学校教育への長年の功績を考えれば、退職金を支給し ないほどの違法行為とは言えない」と判断している。 この場合の判断基準は、問題が特に背信的であって、 永年勤続の功を抹消してしまうほどの行為と言えるか にある。 その程度によっては、退職金の全額又は一定割合を支払 うべきだとされることがある。就業規則に不支給の規定 があっても全面的には適用されない。 <犯罪行為で処分> 収賄事件ではないが、痴漢行為で執行猶予付き判決を 受けた鉄道会社職員について、東京高裁が懲戒解雇は 有効としたが、退職金は、職員の行為に相当程度の背信 性があったとはいえないことから、全額不支給ではなく 3割を支給すべきであるとした事例がある。 伊勢崎市の件は公務員の犯罪行為であり、組織の規律 市民の信頼等を考慮して、勤続の功も抹消するほどの 行為だと判断されるかどうか。