嘱託殺人か殺人かの違い
<教え子を殺害> 福井大元准教授、嘱託殺人を主張 教え子の大学院生死亡 共同通信 2016/9/12 赤トンボ研究の教え子だった東邦大の大学院 生菅原みわさんを殺害したとして、殺人罪に問 われた福井大大学院元特命准教授前園泰徳被告 は12日、福井地裁裁判員裁判初公判で「事件 当日に『殺してください』と頼まれたので、首 を絞めて死なせた。 この点で起訴事実と異なる」と主張。弁護側は 嘱託殺人罪に当たると訴えた。 検察側は冒頭陳述で「2人は交際しており、 被告は関係が公に広まることを恐れていた。地 位を失い、妻子を傷つけられることを恐れて被 害者を殺害した身勝手な犯行」と指摘した。 * * * * * * * * * * * <嘱託殺人罪を適用> 福井地裁は9月29日、嘱託殺人罪を適用したと報道 されている。刑は懲役3年6月(求刑・懲役13年)で 実刑判決となっている。 判決理由で、「殺害依頼がなかったと認定するには合理 的な疑いが残る」として、嘱託殺人より重い殺人罪とす ることは認めなかった。 <嘱託殺人の量刑> 刑法で、殺人罪は死刑又は無期若しくは5年以上の懲役 となっている。 一方、嘱託殺人は6月以上7年以下の懲役または禁錮と され、大きな違いがある。 被害者が、病気などで痛みに苦しんで依頼、懇願したと いう殺害の場合もあり、犯行に至る経緯や動機に同情の 余地があることを考慮して刑を猶予された裁判もある。 今回の事件で検察側は、2人が「不倫関係にあった」 「自分の家族に危害が加えられたり関係を公にされるのを 避けるためだった」という。 正常な判断能力がなく、真に殺害を依頼した事実がないと も主張している。 <裁判所の判断> 過去の裁判では、次のような点が考慮されている。 (1)被害者の真意に基づいた殺害依頼があったか 自由意思により、明確に示されたか (2)死亡することの意味を熟慮し、結果を受容 していたか (3)依頼、懇願された経緯や動機には同情の余地 があるか <嘱託殺人の裁判> 次の事件は、夫の依頼を受けて殺害したという嘱託殺人 です。36年もの長期間、夫の介護を単独で献身的に行って きた被告が、痛みに苦しむ被害者の懇願に従って殺害した もので、その犯行の経緯や動機には同情の余地があるとし て、寛大な処罰にされた。 嘱託殺人被告事件 平成22年10月8日 さいたま地方裁判所 主文 被告人を懲役2年6月に処する。 この裁判が確定した日から5年間その刑の執行を猶予 する。 理由 (罪となるべき事実) 被告人は、平成22年3月25日午後9時45分ころ、 A市Ca番地b被告人方において、夫甲から同人の殺害 を依頼されてこれに応じ、殺意をもって同人の頚部に さらしを巻いて絞めつけるなどし、よってそのころ、 同所において同人を頚部圧迫による窒息により死亡させ て殺害した。 (量刑の理由) 1 本件は、被告人が長年介護をしてきた夫である被害 者に依頼されて同人を殺害したという嘱託殺人の事案 である。 2 本件犯行によって、被害者の尊い生命が失われてお り、結果は重大である。 もっとも、被告人は被害者が約36年前に不慮の事故 によって頚髄を損傷して以来、本件に至るまでの長期 間にわたって、同人の指示に従い、日常生活の全般に ついてほぼ単独で献身的な介護を行ってきたところ 、、、同人から殺害を懇願されたことから、同人を 殺害することを決意し、その直後に本件犯行に及んだ ものであって、被害者の介護に自らの半生を捧げ、同 人の指示に忠実に従う生活を送る中で、被告人自身の 利欲などは全く介在させずに、痛みに苦しむ被害者の 懇願に従って本件犯行に至ったという経緯や動機には 同情の余地がある。 しかしながら、、、被害者の殺害依頼に盲目的に 従っており、この点はやはり安易かつ短絡的であると いわざるを得ない。