原発回帰の流れに影響は
<なぜ原発停止を求めたか> 原発停止を求めた鹿児島県知事への疑問 日本経済新聞 2016/8/28 鹿児島県の三反園訓知事が九州電力に川内 原子力発電所の一時停止を要請した。地震に対 する安全性が確認されていないなどとして、 いったん止めて点検することを求めた。知事に は原発の停止を求める法的な権限がなく、異例 の要請である。その中身や根拠には疑問が少な くない。 川内原発は原子力規制委員会の安全審査に合 格し、前任の伊藤祐一郎知事や薩摩川内市の 同意を得て、昨年8月に1号機、10月に2号機 が再稼働した。三反園知事は今年7月の知事選 で同原発の一時停止を訴え初当選した。要請は その公約を実行に移したものだ。 知事は要請の根拠として、4月の熊本地震で 震度7の揺れが続き原発の耐震性をめぐる県民 の不安が強いことを挙げた。事故が起きた際の 高齢者の避難や車両の確保などにも課題が残る とした。 だが規制委は熊本地震の後に改めて安全性を確 かめている。田中俊一委員長は「(一時停止し て)何を点検するのか」と疑問を呈している。 避難計画は、もともと県や地元自治体の責任で 作ったものだ。ここまで詰めれば完璧という ゴールはなく不断の改善は欠かせないが、原発 の運転を続けながらできることが多いのでは ないか。 九電は定期検査のため1号機を10月に、2号 機を12月から一時停止させる計画を立てている。 それを待たずに停止を求めるほど差し迫った 根拠があるのか。知事はそれを示すべきだ。 * * * * * * * * * * * <原発停止を求める意義> 福島原発の事故のあと安全神話は崩れ、国民の多くは 原発ゼロ社会を望んでいる。 そして、政府は原発依存度を可能な限り下げると公約して いる。 原発のない社会に着実に進めていかねばならない、にも かかわらず「原発依存」へ回帰の動きが急速に出ている。 県民の安全・安心を守るとして、原発停止を求めた鹿児 島県知事に支持が集まるのはこのためである。 原発再稼働で安全性が確保できるのか不安を抱いている。 <原発の運転を続ける必要性> 経済への悪影響を抑え、生活コストを下げるために 電気料金の上昇を抑制する必要がある。 天然ガスや石油の輸入に依存して経済力を弱め、安全保障 にも懸念がある。エネルギー自給を高めることが必要。 地球温暖化対策上、二酸化炭素を排出しない原発は、重要 なエネルギーである。 こうした理由が、電力会社や原発推進の立場から強調さ れる。 <その他の主な対立点> *原発積極推進の主張 1)エネルギー安全保障の観点から多様な選択肢が必要 2)原子力技術で国際貢献をする、人材・技術を確保する 3)安全性の確保について、事故が生じる確率と事故の汚染 など悪影響を、最小化するという考え方が世界の標準 ゼロリスクはないという前提で、規制基準が策定され、 安全対策を常に上積みしていく *脱原発の主張 1)原発利用による電気の低料金化は疑わしい 2)原子力発電は安全性、経済性、環境負荷のいずれに も優れた技術といえない 3)ドイツ環境・原子力大臣は、東京の会見で「経済的 に見ても原発は費用がかかり、将来世代に責任を持て るものではない」と強調している <住民の不安を払拭> 川内原発停止要請 九電は住民の不安払拭を 熊本日日新聞 2016年08月28日 知事に原発を止める法的な権限はないものの、 三反園氏は「県のトップの役割は県民の安全・ 安心を守ること。原発のない社会に一歩でも二歩 でも進めるには権限など関係ない」 と強調する。一方の九電にはすんなりと要請に 応じられない事情がうかがえる。安全に問題が ないとする原発を停止する前例をつくれば他原発 に同様の動きが波及しかねない。 原発の停止は経営悪化に直結するだけに、予定外 の停止を避けたいのが本音だろう。 とはいえ、地元の声をないがしろにはできまい。 川内原発はもともと1号機が10月、2号機が 12月からそれぞれ定期検査が予定され、2カ月 程度運転を停止する。 運転再開には地元の同意を得るのが慣例化している。 三反園氏は「九電が要請にどう対応するかで総合的 に判断したい」としており、状況によっては難航 する可能性もある。そうならないためには九電の 真摯な対応が欠かせない。避難計画の支援強化で県 と積極的に連携するなど、住民の安全を最優先する 姿勢を示すべきだ。