不当解雇に金銭解決の制度
労働紛争、金銭解決も 厚労省検討会で議論
日本経済新聞 2015/10/29
厚生労働省は29日、解雇や職場でのいじめなど
労働紛争の解決ルールを議論する検討会の初会合
を開いた。解雇などで生じた労働紛争を金銭で解決
する仕組みを導入すべきかどうかが大きな焦点。
再び労働規制の改革が必要だという話が出ています。
労働者保護のためか、企業の競争力を強める目的なのか。
解雇の金銭解決導入へ議論を
日本経済新聞 2015/4/9
解雇が裁判で不当と判断されたとき、労働者から
申し立てがあれば、金銭補償で紛争を解決できるよう
にする。そうした制度づくりを政府の規制改革会議が
提言した。解雇をめぐる紛争をすみやかに解決する
狙いがある。
不当解雇と認められても、会社との信頼関係が損な
われた後では労働者の職場復帰は容易でない。復帰
できない場合、中小企業などでは労働者が補償金を
受け取れなかったり、もらえても金額がわずかなこと
が多い。労働者が一定の金銭補償を受けられるよう
にし、泣き寝入りを防ぐ制度を設けることは実情に即し
ているといえる。
労働者保護のためには併せて、別の職に移りやすい
環境も整える必要がある。柔軟な労働市場づくりにも
政府は力を入れるべきだ。
企業の経営状態に人員削減の必要性がなかったり、
人選が合理性を欠いたりするなどの解雇は不当とみな
され無効となる。
規制改革会議の提言は、復職以外に金銭補償という
選択肢を明確にし、補償金の基準を設けようというもの
だ。裁判官が企業に支払いを命じることができるように
する。
米国や英国、ドイツなどには解雇の金銭解決制度が
ある。世界の流れである金銭による救済制度を日本も
考えるときだろう。
転職支援も新制度を導入するならより大事になる。
国が一部の分野で設けている職業能力の評価制度を
広げ、中途採用が活発になるようにしたい。職業訓練
の充実など能力開発支援の強化も急務だ。
<推進側の主張と背景>
「労働者の職場復帰は容易でない、泣き寝入りを防ぐ、
世界の流れである」という主張ですが、目的は最後の
部分「転職支援も新制度を導入するならより大事になる」
というところにあるだろう。
この制度は企業側からの要求であり、労働者が望んで
いるものではない。
経済界では、かねてから日本の解雇規制が強すぎるため
に労働の流動化が進まないということがいわれてきた。
裁判官は経済の実情を全く理解しないと公言する人もいる。
<反対側の主張>
1)「金銭による救済が世界の流れだ」というのは一面的。
海外での金銭補償は、不当解雇の悪質性が低い場合
だけである。
2)「泣き寝入りをするよりも」という理屈は乱暴ではないか。
不当解雇とされても、労働者の職場復帰が容易でない
ところに問題がある。
3)裁判は、不当解雇が企業にとって割に合わないものと
いうことを示すはず。悪質性が高い場合にも解雇を認め
るとなれば、社会の劣化を招きかねない。
解雇の金銭解決/企業寄りの姿勢が目立つ
神戸新聞 2015/06/20
政府の規制改革会議は、裁判で解雇無効の判決が
出た場合などに、職場復帰ではなく金銭の支払いで
決着をはかる「解決金制度」の導入を検討する答申を
まとめた。
政府は「労使紛争の長期化を避けるため」と目的を
説明するが、不当な解雇を許容する風潮を招きかね
ない。労働組合などが「金さえ払えば解雇しやすくなる
仕組み」と反発するのは当然だ。
解雇をめぐるルールは、使用者に比べて弱い立場
の労働者を保護するため労働契約法や判例の積み
重ねで厳しく規制されてきた。解決金制度は2002年
と06年にも厚労省の審議会で検討されたが、いずれ
も連合などの反対で実現しなかった。
安倍政権が、いわくつきの難題をあえて規制改革
の重点項目として再浮上させたのは、経済界の強い
要望に応えるためだ。
国際競争が激化する中、経営側がリストラを迅速に
進めるのに役立つ制度、と見ているのは間違いない。
解決金が制度化されれば、経営側が解雇無効を
承知で強硬手段に出るなど、制度を悪用する恐れが
ある。
解決金をどの水準に設定するか、乱用にどう歯止め
をかけるかなど問題点は多い。導入ありきで拙速に
議論を進めてはならない。