野球観戦の臨場感と安全性
ファウルボール直撃し観客失明、 球団に賠償命令 読売新聞 2015年03月26日 長谷川恭弘裁判長は「打球に対する安全設備、注意喚起 に安全性を欠いていた」と指摘した。 事故は2010年8月、打球が1塁側内野席前列に座って いた子供連れの女性に当たって起きた。 判決はまず、野球場の安全性について「野球のルールを 知らない観客にも留意して、打球が飛んでくる危険を防ぐ ための安全対策が必要だ」と指摘。 球団側は「場内アナウンスなどで打球の行方に対して注意 を喚起した」と主張したが、判決は「打球が飛んでくる危険 があり得ることを知らせるだけでは、安全性の確保に十分で はない」と判断した。
<裁判所の判断> *野球のルールを知らない観客にも留意して、打球が飛んで くる危険を防ぐための安全対策が必要だ *打球が飛んでくる危険があり得ることを知らせるだけでは、 安全性の確保に十分ではない *観客に常に試合から目を離さないよう求めるのは現実的では ない。 フェンスの高さはファウルボールを遮れるものでは なく、目を離したすきに打球が飛来する可能性も具体的に 周知していなかった *球場の内野席とグラウンド間のフェンスは高さ約2・9メートル でその上に防球ネットなどがなかった *内野席の防球ネットを取り外すなど臨場感の確保に偏って いた。 わずかな時間で打球を避けるのは不可能。防球ネット などの安全設備を設ける必要があった *他の球場の設備が安全性を十分確保しているとは認められ ず、他に見劣りしないことを理由にドームの現状を追認でき ない *観客がボールを見ていない可能性が全くないことを前提と した安全設備の設置管理には、瑕疵がある <過去の事例> 仙台市のプロ野球で同様の事故があり、仙台地裁、高裁は 損害賠償の請求を棄却している。 その判断理由は次のように対照的であり、この問題は今後 さらに争いが続く可能性が高い。 *観客の側にも相応の注意が求められる。 *臨場感もプロ野球の観戦には無視できない。過剰な安全 施設はプロ野球観戦の魅力を減殺させる。 *通常の用法の範囲内で観客に対して危険な結果が起きて も、それは不可抗力といえる。 <疑問点> 「臨場感」は、野球愛好家の希望であり、バットやボールの 動きに機敏に対応できるのも限られた人であろう。 打球の危険を避けられない人は、球場内に多いはず。 通常の安全対策を施しているから、それ以上は観客の自己 責任というのは通らない。観客がフェンスを超えて、危険に 近寄ったというのとは違う。 「臨場感」が必要だというのであれば、機敏に対応できる野球 愛好家のための特別ゾーンを設ければよい。 球場にいる人には様々な動機、目的があるはず、「臨場感」も ゲームの進行に限らず、場内の雰囲気、他の観客の反応や音 などがあろう。 野球に詳しい人でも、ボールの行方を常に追っているわけで はない、よそ見もする、買物もする、家族の世話をするなど。