雇用の改善と社会の安定<オピニオン比較>
雇用の「改善」 量だけでなく質に目を 京都新聞 2014年07月12日 雇用にかかわる統計の改善が目立っている。5月の 有効求人倍率は1・09倍と21年11カ月ぶりの高水準と なる一方、同月の完全失業率は3・5%と16年5カ月ぶり の低水準である。 ただ、中身をよくみると、求人は一部の業種や非正規 雇用に偏っている。いびつな形で人手不足が起きて おり、むしろ経済の足を引っ張りかねない状況だ。 特に人手不足が顕著なのは建設業である。以前から 離職率が高い医療・介護や、業績が持ち直した製造業 なども人手が足りない。 いずれも賃金の安い非正規雇用に頼ってきた職場だ。 5月の有効求人倍率でいえば、正社員は0・67倍に とどまる。同月の雇用に占める非正規の割合は36・6 %で前月より増えている。 今後は雇用の量だけでなく、質にも目を向けたい。 4割近くに及ぶ非正規雇用の実態を直視するべきだ。 景気が落ち込めば、非正規労働者を雇い止めして帳尻 を合わせるような経営手法が、日本経済の活力をそぎ、 社会を疲弊させてきたのではないか。 企業の人件費は増えようが、人への投資は技術力を 高め、社会の安定や消費の増加にも結びつく。安倍 政権は雇用規制の緩和など大企業偏重の施策より、 正規雇用の奨励や最低賃金の引き上げで経済の足腰 を強めるべきだ。
人手不足 正規雇用増やす好機に 北海道新聞 2014年8月5日 人手不足が目立ってきた。 企業は雇用の安定と定着 の手だてを真剣に考えるべきときだ。非正規労働者を 雇用の「調整弁」とする従来の手法を改め、正規雇用を 増やす契機としたい。 気になるのは企業からの求人が非正規労働者が中心 であることだ。正社員に限った求人倍率は0・68倍に とどまる。 正規雇用を増やせば従業員の生活が安定する。個人 消費が活発になり、企業業績も上向くという好循環を 実現させるべきだ。 そもそも人手不足の背景には、少子高齢化で15~64 歳の「生産年齢人口」が減り続けている構造的な問題が 横たわる。 日本経済にとって労働力不足は長期的に避けては通れ ない課題だろう。 長い目で見ても、非正規に頼るばかりの雇用のあり方 は通用しないのではないか。
<企業の姿勢と労働者への注文> 各社の意見では、求人が非正規労働者中心になっている。 企業は賃金の安い非正規雇用に頼ってきた、この経営手法 が、社会を疲弊させてきたことを指摘する。 非正規労働者を雇用の「調整弁」とする従来の手法を改め、 正規雇用を増やす。 その結果、従業員の生活が安定し、 個人消費が活発になり、企業業績も上向くという好循環を実現 させる方向を目指すべきという点で共通する。 一方、次の意見では雇用政策に注文するとして、成長産業へ 転換すること、そのため柔軟に移れるように労働市場を整備 することを要求している。 労働者に対しては、知識や技能を身につけさせること、職業 紹介の充実そして成果賃金で生産性向上を図るべきという。
労働力を眠らせない社会に 日本経済新聞 2014/10/18 政府にもっと強力に取り組んでもらいたい雇用政策が ある。人がより力を発揮できる環境や分野に移れるように する柔軟な労働市場づくりである。 失業中や非正規雇用の人が正社員になれるようにしたり、 衰退産業から成長産業への転職を支援したりすることだ。 労働力が減るなかで経済の活力を保つには1人あたり の付加価値を増やす必要がある。そのためにも失業者の 就業や非正規雇用者の正社員化の支援が大事になる。 内閣府の分析では企業内の余剰人員は11年で465万 人に達する。こうした労働力を成長分野に移していくこと も大きな課題だ。 求められているのはその人が希望する仕事に就くのに 必要な知識や技能を身につけやすくすることや、職業紹介 の充実だ。 その人の就きたい仕事に合わせて職業訓練プログラム をつくるなどの支援も強化できるだろう。 産業構造の変化に合わせ、サービス分野の職業訓練 を拡充することも欠かせない。ここでも民間事業者の活用 を進めたい。 労働時間の長さでなく成果で賃金を払う「ホワイトカラー ・エグゼンプション」は社員の生産性向上を促す。 政府には国の成長基盤づくりとして、柔軟な労働市場の 整備にもより力を入れてほしい。