混合診療解禁はどうなるか
混合診療、出口見えぬまま10年 第4回 日本経済新聞 2013/4/8 政府は2004年に混合診療の範囲を大きく広げると決めた が、実態は厚生労働省が一部の例外を認めてきただけ。 それから10年近く。原則解禁の気配はない。 政府規制改革会議の委員だった松井証券の松井道夫社長。 「患者の選択肢が広がる」と解禁を唱える。 おきまりの反対論は「低所得層が良質な医療を受けられ なくなる」。これから出る新しい治療法は混合診療が原則 となり、保険の適用外となって所得の低い人が困るという 理屈だ。 医師会は主張する。「必要な医療技術は混合診療ではなく、 速やかに保険の対象に」と主張。 一理ありそうだが、すかさず「保険財政がもたない」と 松井氏。 保険を充実させ続けるか財政負担を考えて見直すか。どう やら医療制度の根幹にかかわる対立のようだ。 技術や価格を競う世界を遠ざけ、公的保険の殻にこもる 医療。患者の選択肢は広がらない。 そこに皆保険の見直し論議や財政の問題も絡むから余計に ややこしい。 (一部引用)
「混合診療」については、現在禁止されており、 これを全面的に解禁すべしという意見、 これに強く反対する意見とに大きく分かれている。 <混合診療原則禁止の理由> 混合診療禁止というのは、がん治療などで健康保険の適用されない 薬や手術を使うと治療全体が保険適用外になり、全額個人負担となる もの。 ある病気の診療において保険が適用されない検査や治療を、保険が きくものと同時に行うことを混合診療という。 患者によっては健康保険で負担されることによって、その分軽減 されることになるので、強く要望されている面がある。 ところで、日本の医療保険制度は、誰でも一定の負担でいつでも どこでも安心して医療が受けられることが原則になっている。 にもかかわらず、混合診療になると *保険診療で足りる場合でも、患者に保険外診療を求められ、自己 負担が増大するおそれがある。 *安全性や有効性が不明確な医療が保険診療と併せて提供される おそれがある。 *質の低い医療が行われかねない。風邪にビタミン注射は効果がない ため、現在では保険診療内でむやみにビタミン注射を行えない。 混合診療解禁によって、病気で受診した患者にビタミン注射を勧め ることが可能になる。 *医療においては、情報の質、量において患者と医師の間に大きな 格差がある。 患者は品質に関する情報が不足して、選択が難しい。競争原理が 必ずしも働かない。 上のような理由から、現在は混合診療が原則禁止になっている。 混合診療解禁を推進する側と反対の側の主張は、おおよそ下のよう になっているが、それぞれの立脚点、立場の違いが明確である。 医療制度の目標についての理解、国民の利益をどう捉えるかなど根本 に大きな対立がある。 <混合診療全面解禁の主張> *がんや難病の患者らから、全額自費負担は厳しいので混合診療を 認めて欲しいという要望が出された。 *患者側に多様な選択肢を用意でき、新薬、医療技術の開発が促進 される。 *公的保険の適用範囲を見直すことになり、民間保険が拡大して医療 費の公的支出を減らすことができる。 *高額となる医療費に備えて民間保険に入る人が増え、保険金融市場 が活性化すると見込まれる。 また、混合診療の拡大によって医療が成長産業になり、経済成長が 促進される。 <混合診療解禁反対の主張> *混合診療を全面解禁すれば、本来公的医療保険で扱うべき医療の 範囲が縮小される恐れがある。 *医者、製薬会社が高額な治療を選ぶことになって、公的保険では 必要な医療まで受けられなくなる危険性がある。 *患者の保険外負担が増えることになり、医療における私的保険が 拡大して、医療が営利目的になりかねない。 *金持ちは良い医療が受けられるという医療格差の問題が生じて、 国民皆保険制度が危うくなる。 *混合診療を認めると、効果や安全性の疑わしい医療が広がる おそれがある。